最高裁判所第二小法廷 昭和56年(オ)1047号 判決 1982年3月12日
上告人
高山商事株式会社
右代表者清算人
高山幸雄
右訴訟代理人
岩城弘侑
被上告人
株式会社
岩田興林
右代表者
岩田有弘
主文
本件上告を棄却する。
上告費用は上告人の負担とする。
理由
上告代理人岩城弘侑の上告理由について
原審の適法に確定した事実関係によれば、本件各手形の表面には、それぞれ振出日欄と振出地欄との行間に、ゴム印様のもので押捺したと思われる、約二ミリメートル大の不動文字からなる「裏書譲渡禁ず」との文言が幅約1.2センチメートルにわたり横書で記入されているというのであるところ、右事実関係のもとにおいて、本件各手形には裏書禁止文句の記載があるとした原審の判断は正当であり、その過程に所論の違法はない。所論引用の判例は本件に適切でない。論旨は、採用することができない。
よつて、民訴法四〇一条、九五条、八九条に従い、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(大橋進 栗本一夫 木下忠良 鹽野宜慶 宮﨑梧一)
上告代理人岩城弘侑の上告理由
原判決には、次の通り判決に影響を及ぼすこと明らかな法令の違背がある。
確定判決(大審昭和一〇年(オ)第一七八一号事件)によれば裏書禁止手形であるためには、手形の記載面上、振出人が裏書を禁止して振出したことが明瞭でなければならない。
ところで本件手形三通は、いずれも受取人・裏書人・上告人および石狩中央信用金庫札幌支店を転々と流通していつたにもかかわらず、誰一人として裏書禁止文言の記載には気がついていなかつたものであり、それは何よりも確定判決のいう「明瞭性」を欠いていたことを雄弁に物語つている。
ところで、受取人はあるいはこの裏書禁止文言の記載に気付いていたかも知れない。
そうだとするならば、その事実を秘匿して受取人は裏書譲渡しているわけであり、その行為はまさしく詐欺行為に等しい。
そのような行為を可能とするような本件手形の裏書禁止の記載方法は認められるべきものではなく、振出人を保護する理由など全く見い出せない。
原審においては、裁判官はそれぞれ本件手形の原本をじつくり観察したはずである。
しかし、そもそも裁判官としてはすでに流通下におかれていない「死んだ」約束手形について裏書禁止文言が記載されている事実を認識しながら、その記載の明瞭性を判断したものであつて、それは「生きた」手形を扱つている手形の関与者の観察態度とは決定的な差異がある。とにかく百聞は一見に如かずである。
裁判官におかれては、本件手形の原本をそれが転々と流通している過程における手形受取人あるいは裏書人、取立委任を受けた金融機関の立場を規定して、その明瞭性を判断していただきたい。